公演鑑賞ガイド

《原作の登場人物》
リチャード・ウォリック ・・・・・ウォリック家の当主
ローラ・ウォリック・・・・・・・リチャードの妻
マイクル・スタークウェッダー・・深夜の客
ミス・ベネット・・・・・・・・・リチャードの看護婦
ジャン・ウォリック・・・・・・・リチャードの異母弟
ウォリック夫人 ・・・・・・・・リチャードの母
ヘンリー・エンジェル・・・・・・リチャードの従僕
キャドワラダー・・・・・・・・・部長刑事
トマス・・・・・・・・・・・・・警部
ジュリアン・ファラー・・・・・・ローラの男友達
です。
※今回の公演では、キャドワラダー、トマス役は『刑事』として、他に『マクレガーの子供』『シャドー』の登場設定をしています。
 
 

 <物語の始まり>

 『若かりしリチャードは恵まれた実業家として成功しローラを娶(めと)った。 ところが趣味の狩猟中に猛獣に襲われた事で半身が不随になってしまいます。 挫折を知らなかったリチャードは酒に溺れ、理不尽さと残忍さの化け物に変わり果ててしまい、どんな時も銃を離さず家人すらも恐怖におとしいれ、飲酒運転の自動車事故で子供をはねてしまう事件も起こしていました。
ある日の深夜。霧が深い道で一台の車が故障し、 車の主スタークウェッダーは一筋の光を手掛かりにとある屋敷に助けを求めます。 しかしそこでは殺人が行われた直後で、凶器の銃を持った妻ローラがたたずんでいました。 「ドアがひらき、招かれざる客がはいってくる...」そうつぶやいたローラは夫の殺害を告白。 不憫に思ったスタークウェッダーはローラに救いの手を差し伸べようとして、 他人の手で行われた殺人にしようと持ち掛けたのです。
やがて騒がしくなり家人が全員集まってくると、既に冷たくなっているリチャードを発見。 その時、今、訪れたかのようにスタークウェッダーが現れて「誰かがこれを落として逃げて行った」と 拳銃を差し出します。
通報を受けた刑事が検分を始めて証拠になる物を押収し、一人一人に事情を聞きます。』
 
 この様な情景から始まります。推理作品には読者や観客の皆さんが登場人物を探り犯人を考える楽しみがありますので、これ以上ストーリーの説明は出来ません。
ここからは、今回の作品を振付・演出した新屋滋之氏に公演での見所や鑑賞ポイントをお伺いします。
 

《ダンスとしての見所・鑑賞ポイント》

新屋滋之(演出・振付)

 
 

◆工夫したポイントは?

【新屋】例えばベネットは思い込みが激しく、ジャンが絶対犯人だろうと決めつけて誘導していく。原作の中では出てこないんだけども、公演ではシャドーっていう役割のダンサーを作って、ベネットが術をかけて洗脳しているふうに見せることで、空気感を作ったりジャンが催眠術にかかり洗脳されているというような見え方の工夫をしました。
 

◆シャドーの役割・狙いは?

【新屋】シャドーって、空気感、その部屋の中の空気がピリピリしてたりとか、ゆるいとか、怒ってるとか。これは歌舞伎で言ったら黒衣とかが操る感じで、自分が作る作品の中でよく出てくる『運命的な存在表現』を、ある一定方向に引っ張られたりするのをシャドーが出したり補佐したりするっていう役割です。特に終盤になればなる程シャドーの役割が重要になってきてます。話が佳境(かきょう)に入ってきて切迫してくるとか、人物の恐怖とか、追い詰められるとか、そういうものをシャドーで表すのを担ってきたように思います。
 

◆登場人物それぞれに殺意があり、犯人の可能性があるよね。

【新屋】“誰が犯人やろ?” というふうに思わせるような作り方をしようと思いました。
1幕の終わりに「ジュリアンがもしかしたら犯人じゃないか」って言うシーンがあって、そこでマイクルが「ジュリアンが犯人だろう」と言う所をセリフで言えないから、シャドーの覆面を外したら中からジュリアンが出てきたっていう。そういう見せ方をしたりした。
リチャードが殺された日にライターが落ちている場面も、2回3回見せてライターが誰のものかと問いただす。マイクルは「誰かが誰かを庇っているのでは?」と無言のアピールで責める場でも、シャドーや仮面を使って見せ方を拘って作ってます。
他にも、原作では指紋を記録された紙を持っているだけだから、その紙を刑事が持っていてもセリフが無いので何の紙か分からない。そこで舞台上の別空間で、住人達が指紋採取をするシーンを作ってその指紋採取した紙をシャドーが集め、空間移動して刑事の手元にそのまま渡すという見せ方とか内容を掘り下げて表現する場もシャドーを活用して作りました。
 

◆刑事の役割は?

【新屋】原作の中では、刑事が推理するシーンって無いんですよ。そこをあえて作って、少しだけですが考察するシーンも入れることで被害者家族から加害者視線に変わる表現も出せるようにしてみました。
 

◆印象に残った人物とかは?

【新屋】作っていくうちに、あれ? ローラが主役やなって思ってしまった。ドラマの核となっていくのがローラに思えたんです。そこにマイクルは外からローラに対して、いろんな助言やらサポートをしていたように感じて。だからローラの感情っていうか伝わり方が一番印象が大きかったです。そして作品全体にそういった奥深さのある人物描写が多く描かれているのを感じました。あと、ウォリック夫人の深い愛というかリチャードのことを愛しているのは勿論ですが、ウォリック夫人が「私もこれから先の人生は長くないから、私が犯人になって他の住人達が容疑者から外れるように」みたいな母性というのを感じました。
 

◆制作していて苦労したことは?

【新屋】一番苦労したところ、簡単に言うとドラマチックじゃない場面の表現。普通のところ、何もないところの場面です。逆に、ドラマチックなところはある意味作りやすいんですよ。ドラマチックなところは、ほっておいても踊りも入れやすいし、感情も出しやすいから、そして、音楽もそういう音楽で表現できるからです。観る側の人も激しくとか、動きでエンターテイメント的な視覚になっていけるけど、普通のところって何もないから、過度な動きを入れてもすごく違和感が出てくる。そしてセリフも使えないから大変なんですよ。
事件の発端のシーンとかでも、リチャードは死んだ、殺されたという場面は普通ではないんですけど、派手でもないんです。犯行声明がリチャードの脇に刺さっていたという場面があり、そこは工夫したことです。これはもちろんシャドーを使ってですが、検証現場を荒らしたらダメなので、その犯行声明を読むことが出来ない場面をシャドーがその役割になる振付をしました。
 
◆いかがでしょうか? 原作は描写や情景が細かに描かれていてそれぞれの役柄のセリフからもその人物像を感じることが出来ますが、セリフの無いダンス公演を作るにはシャドーの活用など工夫があるようです。
これを読んで頂いて少しでも公演の鑑賞ガイドになって頂けると嬉しいです。そしてもっと内容を理解したいと思われた方は是非とも原作本を読まれる事をおすすめします。